ブログ「かぞくのことば史」

かぞくのエピソードは、忘れてしまうには寂しいから、パパ目線で切り取っていきます。全国のかぞくからのご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします!

ひも|かぞくのことば史008

かぞくのことば史(2019・1・8)

りんちゃんは幼稚園年長として、最後の最後の3学期に出かけている。予定のない休日。りんちゃんが帰ってくるまで、こちらの前髪さんと遊ぼう。そうちゃんの目に入りそうだった前髪は、メグさんの手によって眉のはるか上空へと切り詰められた。私に向かって走り寄ってくるそうちゃんは、もはや「迫り来る前髪」だった。

一人遊びが上手だったりんちゃんとは対照的に、そうちゃんは激しい。今日も私とそうちゃんは戦うことになるのだろう。ウルトラマンごっこの話は少し前にした。まだ言葉も完全に出切らない分、「ガーーー」やら「どわーーーー」といった叫び声も多く、そうちゃんとの遊びは長時間続くと、疲れてしまう。それでも、ちょっとした彼の素振りや、一言に元気が出て、なんとか遊び続けられたりもする。今日もそんな節があった。

そうちゃんの波状攻撃に屈し、疲れて休憩中の私は、見ていた。今の今まで、一心不乱に遊んでいたそうちゃんが遊びの手を止め、その小さな自分の手を観察し始めるそうちゃんを観察していた。長袖をまくりあげ、手のひらを上に向け、下に向け、うでの全体を気にしている。そして私に訴えかける。

「ぱぱぁ、ひもは。これは。ひもは。」

久しぶりによくわからない。そうちゃんはよく、ご飯つぶや、なにかクリームなど、手についたものを細かくきにすることがある。「まだ、ここについてる」「もうちょっと拭いてほしい」結構要求がうるさい。それもあって、長袖の裾の「ひも」がほつれて腕に絡みついて気になってしまうのかと私は予想した。私はそうちゃんを近くに呼び寄せると、洋服の裾を調べた。ほつれた様子はない。

「パパは、ひもは、そうちゃんは、ひもは。」

どうしよう。本当にわからない。だいたいこういう時は、近くのメグさんが教えてくれたりもするが、メグさんの顔にもハテナが飛んでいる。

そうちゃんは尚も私の腕をとり、訴えかける。

「ぱぱ、ひもは、そうちゃんは、ひもは?ないよ?」 「ないの?何がないの?ひもがないの?」 「ひもが、ないよ。パパは、ひもは、あるよ。そうちゃんは、ひもは?」 「あ、パパの袖がほつれてるの?腕まくりしてたからわからなかった。」

まて。袖をおろして調べたがほつれていない。違う。多分違う。そうちゃんは再び私の腕をまくりあげて、続ける。

「ぱぱは、ひもは、これは、ひもは、そうちゃんは、ひもは、これは、これは、ひもは、これは。」

狂ったように続けながら私の腕に何かしている。ああ。そうか。「ひも」がミスリードかよ。

そうちゃんは必死で私の「腕毛」をつまんでいる。

「パパ、これは、ひもは、あるよ。そうちゃん、ないよ。」 「これはね、ひもじゃないんだよ、毛が生えてるの。」

笑いながら答える私に、メグさんも爆笑している。今度は頭の髪の毛をさわりながら、 「ぱぱ、これは。ひも?」 「それも、毛だよ。髪の毛。」

そうちゃんの世界は不思議で満ちている。彼の不思議を少しでも一緒に解明していけたら、それだけで暮らしが明るくなるような気がする。疑問が解けたそうちゃんは、清々しい顔でウルトラマンに戻った。