けん玉|かぞくのことば史029
かぞくのことば史(2019・1・29)
家の鍵を開けて中に入った時点で、子どもが起きているか寝ているかは気づく。起きていれば、二人の息子がかき回す空気やエネルギーのような活気を肌で感じるし、逆に寝ていれば空気も静かなのだ。
今夜はメグさんの姿も見えないので、ちょうど寝かし中。インフルエンザも流行しているし、まずはお風呂に入って、クリーンな状態に戻さねばと、風呂支度をしていると、リビングに見覚えのないけん玉がある。
りんちゃんが幼稚園で作ったものなのだろう。お正月遊びのおもちゃは毎年作っていて、去年はコマだった。懐かしくなって、なんとなく手に取ってしまう。この時点で、「あ、お風呂はいってないのに」と思ったのだけれど、童心とは怖いもので、気づけば糸を垂らし、カチャン、カチャンと、遊び始めてしまった。もちろん久々なので上手くもなく、どうやって棒の部分に入るのか真剣に考えてしまった。
とにかく穴が下を向いた状態で浮き上がらせないといけない。そのためには、ひざを深く折り曲げ、伸ばす勢いで浮き上がらせる。下から刺す方の手は、最後に脇を締めれば棒が真上を向きやすいことがわかった。
何度かその方法を試すと、5割〜6割で成功するようになったので、大きく間違ってはいないと思う。
さて、完全に面白くなってしまっている。あと数回やったら、もうお風呂に入ろうと思った。明日やろうは馬鹿野郎。あと数回やったらお風呂に入ろうも馬鹿野郎だった。振り向くとメグさんがいた。
やっとの思いで子どもを寝かしつけたメグさんは、寝室を出て、1階へと向かう。リビングからカチャンカチャンと怪しい音が聞こえてくる。ドアを開けると、パンツ1枚で一心不乱にけん玉を繰り返す旦那を目撃したのだ。
「早く風呂にはいらんかーーーい!ちょっと貸して!!!!」
と近づいてきたメグさんは、私の持っているけん玉を奪いとり、玉を下に垂らして構えをとった。
(え?)
ふわっと玉を浮き上がらせて、まるでフェンシングの選手が宙のリンゴを刺すように、小刻みに真横に突いた。玉は跳ね飛ばされて下に落ち、またプラプラ垂れ下がっている。
「…………。」 「絶対成功させる気ないよね?」
無言のまま、再び玉が宙にふわっと浮き上がる。小刻みに動かすけん玉がナイフのように玉を突きはじく。カチャンッ!!プラプラ……。垂れ下がり揺れる玉。しばらくの間。けん玉にぶつけていたストレスがやっと声になって飛んできた。
「やっと寝た!!!!!!!」
けん玉を置く。
「さ、ご飯つくって呑も。お風呂はいってきてね。」
「は、はい。」
ストレスの解消方が独特過ぎる笑。あの小刻みな腕の動きが私に向かないうちにお風呂に入ろう。この時期のパンツ一枚はさすがに冷えた。